本研究の土台となっている論文や書物などの資料についての簡単な紹介、感想などが以下通りである。

 

1. 稲垣滋子他、2003

「ロシア語圏における日本語教育支援環境整理に向けて-モスクワ市、アルマトゥイ市、ウラジオストク市での基礎調査」

 

ロシア語圏における日本語教育で現在必要とされている事柄を検討した結果として、稲垣(2003)は教育目的を軸に、次のような4つの目的を取り上げる。

①日本語の専門家養成を目的とする場合

②通訳・翻訳の専門家養成を目的とする場合

③外交官養成を目的とする場合

④第二外国語としての日本語の場合

また、通訳・翻訳者養成は日本語教育の注句であり、これは今日でも続いていることである。「通訳・翻訳するためには、日本語の文法・感じ・語彙の正確な理解と運用といった面が重視されてきたどの日本語を教えるかについては、文法的に正しい日本語であるべきだと考えられている点は、ほぼ全機関で共通」であると指摘している。

 

2. Маевский Е.В. , 1991

Учебное пособие по старописьменному японскому языку (Бунго)

 

現在ロシアにおいては、文語コースが実施されている大学では、文語教育が中心になされている教科書や参考書の中で教育を目的に作られたのは明らかに以下のもののみである。このテキストは、14課から成り、明治時代の文章から始まり、平安時代の典型的な文学作品までの解説がなされている。更に、和文及び漢文の例も挙げられている。1学期で日本語史上のあらゆる文体について一般的な概念を得ようとしている学習者にとって便利なものである。しかし、コースの修了後、辞書を使用すれば、自由に文章を読み解けるようレベルを目標としている学習者から見ると、文語の基礎であるある文法型の説明が不十分で、時代ごとの文法型を精確に理解することが難しい。また、この教科書の問題点は、練習用の項目が不足していることであるという現在ロシア国立人文大学の東洋語学部で文語のコースを担当している教師の指摘もある。

 

 

3. 木谷直之1998

「極東ロシアの大学生の言語学習観について―海外日本語教師研修のための基礎データ政策を考える―」

 

極東ロシアの大学生の言語学習観についての調査の結果から、学生が教師に対する信頼や期待が強く、自身の言語学習の内容や過程を主体的に振り返る習慣をあまり持っていない考察できる。つまり、協働学習は馴染みのない活動としては、学習観に合わなくそのまま何の準備なしに採用すると、反感を招く恐れがあることを推測できるだろう。そこから、協働学習を上手くできるようにならせるためには、まず学習者が慣れてきている活動を用いながら教室内の活動を形態する必要があると思う。さらに、ロシアの言語教育の特徴として、以下の4点のに挙げている。

(1) 文法訳読法と徹底した暗記練習と翻訳練習を中心とする授業方法;

(2) 対照言語学的な文法分析に基づいた知識重視の学習;

(3) 公式の場で通用する「正しい」「正確な」運用力という価値観の強さ;

(4) 書き言葉(漢字を含む)や抽象度の高い内容を重視する傾向。

 

4. 坂内泰子 2004

「留学生と文語文読解の必要性」

 

坂内は中・上級用の教科書を24点検討して、次のように述べている。

 

学習者は中級後半あたりから、文語的書き言葉の数々に出会うことになる。玉村(2003)も中級用語彙の基本4000語の中に「ぬ」(打消し)と「べし」をあげており、実際に、教科書を開くと、「~べきだ」や「~ぬ+名詞」、「~ごとく」などが登場しはじめる。学習が進むにつれ、「~ざるを得ない」や「~べからざる+名詞」、「~たる+名詞」などの表現をも学び、学習者が話すときには使われない表現=書くときだけに使われる表現の存在を意識するようになる。

 

つまり、坂内が検討した教科書に出てくる文語的な表現が現代日本人向けに書かれた文章から採られたものであることから文語は現代日本語でも(わずかながら)用いられることが確認できる。

 

5楊峻、2010

『中国の大学の日本語専攻主幹科目へのグループワークの提案-言語生態の保全の観点から-』

 

本研究では言語生態学に基づき、学習者の持つ言語、即ち目標言語である日本語と母語の両者が、併せて言語主体の言語生態系を形作る、統合した存在として捉えられている。既有能力重視の観点から、会話活動と翻訳活動を取り上げ、二つの活動で見られた言語の使われ方の相違を探ったものである。具体的には、会話活動と翻訳活動において、学習者の持つ言語―母語である中国語と目標言語である日本語の使われ方が質的に分析されている。結果によると、中国語は、どちらの活動においても、会話の内容や訳の適切さなど課題を解決するために使われているだけではなく、他者との関係性つくりにも使われていた。会話活動で観察された中国語へのCSにより、日本語の会話は維持されているが、それらに加えて、「他者との連帯感を作る」といった他者と関係を作るための言語使用も見られた。一方、翻訳活動では、中国語は、質問をする、質問に答える、説明する、確認する以外に、文や文脈を分析する、語彙や文脈を吟味する、日本語を論理的に解釈するなどといった問題を掘り下げるためにも使われていた。さらに、対立意見の緩和、関係づくりといった言語使用も見られた。会話例に倣って質疑応答の連鎖に集中する日本語使用に比べ、中国語が使用された場合、学習者は課題をクリアする以外に、問題を掘り下げて議論をしたり、他者と関係性を作ったりなど、より多くのことを行うことが可能になる。これは、母語を使うことによって、母語で培ってきた諸能力が発揮され、さまざまな活動に参加することが可能になることの例であると考えられる。

 

 

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